感染症に明るい 吉田 友昭 医学博士が
吉田 友昭 医学博士
前・藤田医科大学(愛知県豊明市) 医学部 生物学 教授。感染症に詳しい医学博士。専門は免疫学だが、近年は生物学教育を通して基礎学力の育成に衷心している。「マンガから拾い読みする生物学」(2020年刊 デザインエッグ社)著者
2020.11.16

首掛け扇風機と小型ファンで排気口(換気扇)まで、空気の流れを作る方法

カラオケスナックを経営してらっしゃる皆さんへ。
お客さま同士の感染拡大を防ぐために、マイクの消毒、手洗い、手指のアルコール消毒など、気を使っていらっしゃることと思います。ここでは、飛沫(エアロゾル)と言う視点からお話ししたいと思います。換気は最低でも1時間に1回はしていらっしゃるとは思いますが、1時間に1回と言うのは、間が空きすぎている感もあります。それを連続的に換気するヒントをお話します。1時間には、かなり量の飛沫が出てしまいますから、それが隣の人だけでなく離れた人にも広がる可能性があります。それを連続的に外に捨てる方法です。
コロナ禍で歌うことの危険性とは、飛沫が沢山出ると言うことです。歌うと、大きな飛沫から小さな飛沫まで出ます。大きな飛沫は、マウスシールドのようなもので止めることができます。マウスシールドならプラスチックにくっついて止まりますから、そこから外に出ていくことはあまりありません。ただ小さな飛沫はどうなっているかと言うと、周りから漏れまくっているわけです。この漏れまくる小さな飛沫をどうするかが問題です。そこでご提案したいのが「首掛け扇風機」です。夏に涼をとるために使われていたものです。この扇風機を使って、顎のあたりから上に向かう上昇気流を作ってあげる。歌っている人の呼気を口からでた瞬間に非常に効率よく頭上に運ぶことが出来ます。風量も最低レベルで十分です。最低レベルでも1m程度までは上がることが確認できています。一般的なお店なら天井近くまで上がるわけです。そして天井まで上がったものを外に排出すれば良いのです。
ただ、真上の天井に排気口が無い場合は、換気扇のある場所までの流れを作ってあげる必要があります。1つの例としてはエアコンが利用できる場合もあります。横向きに風がでるエアコンがあれば、風を水平に流せば排気口に導いてあげる事が出来ることがあります。このようなエアコンの配置ではない場合は、小型のファンでも排気口までの流れは十分に作ることが可能です。首掛け扇風機と小型ファンの組合せで、歌っている人の呼気を上にあげて、あがったものをファンで横に流して排気口に導くことが可能です。小型ファンは扇風機でも良いと思います。要は排気口 (換気扇)まで、風の流れを作ってあげることが大切です。この風の流れで、連続的に呼気を上にあげて排気するわけです。この流れをシュミレーションした動画をお見せしますので、イメージを描いていただければいいかと思います。
基本的な考え方として、例えばお風呂のお湯に落ちた絵の具を手桶ですくい取るのは、落ちた瞬間ならほぼ取れますが、時間が経つと混ざって取れない。それと同じことをやったらどうですかという事ですね。いわゆる換気、1時間置きの換気はお風呂場のお湯を全部捨てて、入れ替えることだとしましょう。それは勿体ない。だから一度に全部捨てるのではなく、汚いものだけ手桶で連続的に捨ててあげる。そうするとお湯を沸かし直す必要もなくなるわけです。それを換気にも一つの効率の良い方法として取り入れてみては、と言うご提案です。では、呼気をスモークに見立てたシュミレーション動画をご覧下さい。
これはスモークマシーンの煙を吸って普通にしゃべった時のものです。こんな感じで呼気はフワフワ出ます。そこにマウスシールドと首掛けファンを装着すると、こんな感じで上昇します。非常に速い流れでほとんど見えないくらいです。
こちらはマウスシールドなしなので、ちょっとだけ鼻息は下に行きますが、ほとんどが上に舞い上げられているのが、お分かりになると思います。
これが、あるスナックについていたエアコンです。天井付近にあります。天井のエアコンと反対側に排気口があります。エアコンの風向きを天井と水平に流れるようにセットすれば、首掛け扇風機で舞い上がったスモークは天井近くまであがって、エアコンの風に押されて排気口に向かって流れていくわけです。スモークマシーンはかなり勢いがありますから、どうしてもちょっと(首掛けファンの)向こう側までいっちゃってる感がありますが、エアコンを活用すれば、ちゃんと排気口に誘導していく事ができるわけです。
いかがでしょう。エアコンの風をうまく活用して排気口への風の流れが出来ていることがお分かりいただけたと思います。もう一例、換気扇が少し弱くて、換気条件が悪かった店舗の例を紹介します。ここでは先ほどの小型ファンを使って、風の流れを作っています。
これが先ほどお見せした小型のファンです。呼気に見立てた煙が首掛け扇風機で上がっている。つまりその歌った息が天井に向かって上がっている想定です。こんな風に上がります。上がったものは、さっきの小型ファンででも結構早い速度で向こうに流れていきます。行った先に換気扇がありますから、そこで外に排出されるという想定です。
いかがでしたか。小型のファンでもかなり効率良く空気の流れが作れることを実感いただけたと思います。サーキュレーターを使っても良いのですが、あまり空気をかき混ぜない方がいいです。かき混ぜないで排気口に向けて一定方向に流す。なのでサーキュレーターよりも扇風機の方が良いでしょう。もう一つ、首掛け扇風機には髪を巻き込まないよう風の出口に工夫したものがありますが、涼をとるには優れているかも知れませんが、風の出ない部分が多いので呼気を上にあげるには適していません。ファンタイプのシンプルな首掛け扇風機がよろしいかと思います。
ORIGINAL/ https://youtu.be/b2UqNaGGn1E

呼気を排気口(換気扇)まで導く、風の流れを店内に作ってあげることが大切。

製作・監修 吉田 友昭
作成・公開/2020年11月12日

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首掛け扇風機とマウスシールドを装着して歌唱する舞台のコーラス団
吉田友昭医学博士が感染対策アドバイザーを務めた「サントリー1万人の第九」(2020年12月)の光景。
舞台のコーラス団全員が首掛け扇風機とマウスシールドを装着して歌唱した。
写真提供/毎日放送